あひるの仔に天使の羽根を
「煌、芹霞さんは水を汲みに各務家本家に行っているらしい。迎えに行ってくる」
「ああ。……じゃあ頼むわ」
やはり。
この馬鹿蜜柑は体調を回復出来ていない。
いつもなら、這ってでも迎えに行くはずだろうに、その元気すらないのか。
まあ、目覚めて会話が出来る分、先程に比べればマシだけれど。
そうして私は、建物を出た。
小さい城のような、白亜の殿堂。
最初に目覚めた時、此処が須臾の棟だということは玲様より聞いていた。
外に出れば、太陽が燦々と照り輝いていて。
息の詰まるピンク色の世界から解放されれば空気が清々しく。
各務本家は直ぐ見つかる。
華麗なる曲線美、そして宗教色が濃い荘厳な建物。
荏原は外出中だったらしく、清掃中のメイドが応対してくれたが、芹霞さんの姿は見ていないという。
不吉な予感がした。
私は、昨日初めに案内されたゲストルームの棟に向かおうとしたが、式典が始まっている今、荏原が男女両棟の鍵をかけて出かけたという。
だとしたら。
何処にいるのか、彼女は。
まさか、"中間領域(メリス)"などに踏み込んではいないだろうか。
私は慌ててかけずり回った。