あひるの仔に天使の羽根を
 

何だか足取りが重い。


やはりまだ薬が完全に効いてはいないのか。


耳鳴りまでしてきて、三半規管が狂わされるような錯覚に目眩がしてくる。



「……」



各務本家と、須臾の棟、ゲストの為の棟は、ほぼ等間隔の正三角形状に配置されている。


間にあるのは、昨日通ってきた正門から続く、中庭や噴水。


正門を出れば、私達が下ってきた鏡の迷宮に続く道や、或いは"中間領域(メリス)"へと至る続く道が続いているだろう。


即ち、門を抜ければ見えるはずだ。


"約束の地(カナン)"の、とりわけ"神格領域(ハリス)"を抜けた境界部分が。


もしかして芹霞さんは、そちらに行ってしまったのではないか、そんな危惧に正門の方向に赴いた私は、その可能性が全くないことを認識した。


ない。



道が――ないのだ。



門の先の景色は何もない。


あるのは……崖。



崖の下は、海。



何故ここが高台になるのかも判らない。



昨日、確かに私達は、下ってきたのだ。


そう、下ってきたのだ。


――地下の迷宮から地上へと。



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