あひるの仔に天使の羽根を

「させるかよ!!!」



突如現れた橙色。



櫂の結界に行き着く前に、軽やかに小振りの偃月刀が弧を描き――刃先で器用に搦めた3つの双月牙を床に叩き落とした。



――ドサアアッッ



同時に後ろ側で、何かが倒れる激しい音。


人だ。


人の山だ。


瞬間――


彼らが着ている揃いのその服の形に、制裁者(アリス)を――陽斗の着ていた服の記憶が再現する。


同じ形だ。


だが色が、決定的に違う。


紫だ。暗紫色の――詰め襟の服。


そして胸元に大きな白い十字架の――ロザリオ。


神父――?


そんな彼らを搦め捕っているのは――


後方で、指に絡んだ裂岩糸を操っているのは――




「桜ちゃん――





――だよね?」





疑問系に訊いたのは、理由がある。


こくんと無表情で頷く処を見れば、確かに桜ちゃんなんだろうが。


「ひ、ひえ~。1階広間でお着替え中に奇襲なんて、冗談じゃないよ~ッ!!」


後ろから駆け抜けて来たのは由香ちゃんで。


「折角皆でコスしてる最中だったのにさ~ッ!!!」


だとすれば、やっぱり――。


糸を絡ませている――


この黒髪短髪で、眼鏡をかけた、


何とも理知的で物静か風の美少年は――


――桜ちゃん……なんだ。



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