あひるの仔に天使の羽根を
 

未だ聞え続ける櫂様と思われる声を辿れば、温室に行き着いた。


足を踏み入れれば、咽せるような花の香り。


そして薔薇。


忌まわしい――だけど、色は珍しい暗紫色。



「――…芹霞ッ!!!」


間違いない、櫂様の声だ。


芹霞さんも居るのか。


この温室……本家の真裏にあるのか。


こんな近くに、芹霞さんは居たとは。


「凄い薔薇だね……しかも紫なんて。ボク、生の紫の薔薇なんて見たことなかったよ。金持ちの処にはあるんだね~」


薔薇の道を掻き分けて行った時、



「心が――

何でこんなに遠いんだよッッ!!」



慟哭する櫂様が居て。



そして私達の目の前で芹霞さんの身体は静かに沈んだ。




「神崎!?」


「芹霞さん!?」




私達は同時に驚愕の声を上げると、芹霞さんは私達に向けて少しだけ笑った気がした。


櫂様はそんな芹霞さんを抱き留めながら、



「芹霞、こんなに好きなのに!!!」



櫂様の台詞か?


櫂様が、芹霞さんに告げてたのか?


何故?


どうして?


そして、何故此処まで櫂様は取り乱している?



全てが疑問だらけの中、


櫂様が縋るように芹霞さんをきつく抱きしめる姿を見て



ずきん。



心が痛んだ。
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