あひるの仔に天使の羽根を
「……大丈夫?」
遠坂由香が私を覗き込んでくる。
「大丈夫だといいんですけれど……だけどあの櫂様がこんなになるのは余程」
「違う。紫堂じゃなくて……君のことだよ」
私は訝しげに彼女を見る。
「凄い……傷ついている顔、してるからさ」
「……私が?」
何に?
「ん。ショックだったんじゃないかなってさ、紫堂が……神崎に告ったのがさ」
「え?」
どくん。
何だ、この……心臓の鼓動は。
理解不能な遠坂由香の言葉に、何故私が惑わされる?
「まあ、いいや。ね、葉山。あれ、何とかしないと。判ってないぞ、ボク達がここにいることすら、紫堂は」
遠坂由香は、今までの会話がまるで何でもなかったかのように、今度は櫂様の話題を振って、私に苦笑してくる。
私だけ、その話題の切り換えについていけずに。
「なんかな。恐いくらい全て……姉御の言った通りになっていくな…」
そんな呟きは、動揺していた私の耳には届かなかった。