あひるの仔に天使の羽根を
・縹渺 櫂Side
櫂Side
***************
頭が――
理解することを拒否した。
芹霞を護っているはずの玲がこの場に居ることよりも
俺の血染め石が嫌な気を発したことよりも。
俺自身が感じた"嫌な予感"。
身体がもっていかれそうな、とにかく耐え切れぬ衝動。
芹霞に何かがある。
それは凶兆。
行かなくては。
芹霞の元に行かなくては。
とにかく嫌な予感に、
俺は走って。ひたすら走って。
荏原の運転した車が、"境界闘技場(ホロスコロッシアム)"と呼ばれる会場に直進だけしていたのを知っているから、とにかく"神格領域(ハリス)"へは真っ直ぐに戻れば、行き着くと。
車内で俺は須臾の絡みに辟易していて、窓のカーテンを開け景色を見る気力さえ萎えていたが、"中間領域(メリス)"との間の場所で式典は開催されると聞いていたから。
だから俺はひたすら走ったのだ。
嫌な予感。
それが――
芹霞に対するものではなく、
俺に対する凶事であると、その時の俺は全然考えてもいなくて。
芹霞を護るのは俺だと
芹霞は俺を待っていると
そう――
それは昔からの不変の関係であったから。
必死で俺の精神を研ぎ澄まし、芹霞の気を追って、行き着いたのは温室。
俺の芹霞は、他の男に組み敷かれていて。
凍った時間。
俺の芹霞に触るな!!
渾身の力を入れた拳。
しかし――男に最小限の衝撃しか与えられなかった不可解さを
その時の俺は考える余裕もなく。
ああ、そんなことよりも。
――助けてくれてありがとう。もういいよ、須臾さんとこ戻って?
俺の姿を見ようとしなくなった芹霞。
他人行儀な芹霞。
その顔は、能面のように無表情で。
口許だけが、社交儀礼的な笑みを浮かべて。
目が――虚ろで。
俺を視界に入れようとしない。
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頭が――
理解することを拒否した。
芹霞を護っているはずの玲がこの場に居ることよりも
俺の血染め石が嫌な気を発したことよりも。
俺自身が感じた"嫌な予感"。
身体がもっていかれそうな、とにかく耐え切れぬ衝動。
芹霞に何かがある。
それは凶兆。
行かなくては。
芹霞の元に行かなくては。
とにかく嫌な予感に、
俺は走って。ひたすら走って。
荏原の運転した車が、"境界闘技場(ホロスコロッシアム)"と呼ばれる会場に直進だけしていたのを知っているから、とにかく"神格領域(ハリス)"へは真っ直ぐに戻れば、行き着くと。
車内で俺は須臾の絡みに辟易していて、窓のカーテンを開け景色を見る気力さえ萎えていたが、"中間領域(メリス)"との間の場所で式典は開催されると聞いていたから。
だから俺はひたすら走ったのだ。
嫌な予感。
それが――
芹霞に対するものではなく、
俺に対する凶事であると、その時の俺は全然考えてもいなくて。
芹霞を護るのは俺だと
芹霞は俺を待っていると
そう――
それは昔からの不変の関係であったから。
必死で俺の精神を研ぎ澄まし、芹霞の気を追って、行き着いたのは温室。
俺の芹霞は、他の男に組み敷かれていて。
凍った時間。
俺の芹霞に触るな!!
渾身の力を入れた拳。
しかし――男に最小限の衝撃しか与えられなかった不可解さを
その時の俺は考える余裕もなく。
ああ、そんなことよりも。
――助けてくれてありがとう。もういいよ、須臾さんとこ戻って?
俺の姿を見ようとしなくなった芹霞。
他人行儀な芹霞。
その顔は、能面のように無表情で。
口許だけが、社交儀礼的な笑みを浮かべて。
目が――虚ろで。
俺を視界に入れようとしない。