あひるの仔に天使の羽根を
完全――誤算だった。
拒まれるとは思っていなかったから。
正直――落胆した。
芹霞の動揺が激しい為、病院を追い出された俺は、きっと俺の変貌の有様が完璧ではなかったからじゃないかと思い悩んで、そこから約半年くらいは、芹霞に会うことを控えて、"紫堂櫂"として自分を磨く努力をしていた。
もっともっと強く。
もっともっと男らしく。
もっともっと誰からも羨まれる存在にならねば。
その間、煌と俺と玲は正式に対面し、俺は芹霞の様子を同居している煌からよく聞いていた。
俺の居ない間の芹霞を、煌に託した。
――おう、任せろ!!
煌は人懐っこい笑顔を見せて頷いた。
そしてようやく。
俺にも、良い意味でも悪い意味でも『気高き獅子』と異名を頂戴出来るようになった時、また芹霞に会いに行った。
今度こそ、そう意気込んで。
芹霞を手に入れる為には俺が"王子様"にならねばならない。
王子様になる為には、紫堂財閥が必要だ。
紫堂財閥を手に入れる為には、"次期当主"が必要で。
芹霞を闇から護る為にも、それは絶対的な必須条件で。
――約束します、父上。
俺が王子様になれば、芹霞は手に入れられると。
芹霞は自分で、俺に飛び込んでくると。
それだけの努力を俺はしてきたのだから。
それだけを願って、俺は頑張ってきたから。
だから俺から動かずとも芹霞は自ずと手に入ると、親父との約束をこの上なく軽んじていたのは事実で。
久々に会った俺は、前と同じように芹霞の名前を呼んだ。
今度の芹霞は泣き叫ばなかった。
ただ俺をじっと見て。
そして目をそらして。
――煌から、櫂の話はよく聞いていたよ。
――櫂は紫堂のものになっちゃったんだね。
そう言って、
――わざわざありがとう。もういいよ、家に帰って?
俺を突き放した。
それは、能面のような…不気味な笑みで。