あひるの仔に天使の羽根を
いつの間にか、桜と遠坂が居て。
何か言っているけど俺には理解が出来ない。
腕の中にいる芹霞を想うだけで。
自分の情けなさに泣けてくる。
もどかしさに発狂したくなる。
「……紫堂?」
いつでも。
いつの時でも。
求めるのは芹霞という存在。
だけど芹霞は俺を求めていなくて。
絶望。
文字にすれば何て軽い。
俺のこの深い悲しみは、きっと俺にしか判らない。
こんな単語なんかに収まりきれない。
俺の想いは溢れ返っている。
「おい紫堂!?」
遠坂が俺を揺さぶった。
だけどもう、俺は芹霞以外は揺さぶられない。
芹霞だけだ。
芹霞。
芹霞。
そんな意思を汲み取ったのか、突然
――パシーンッ!!
俺の頬に平手が打たれた。
「由香さんッ!!! 櫂様になんていうことを!!!」
桜がいきりたって、遠坂に掴みかかる。
「葉山、今はもめてる場合じゃないんだ!!
一刻も早く、師匠を!!!」
騒いでいる。
俺は俯いて、心で耳を塞ぐ。
煩い。
煩い。
煩い。
――パシーンッ!!
「"私を見ろ、坊"」
その台詞に、俺は静かに目を合わせた。
遠坂由香と。