あひるの仔に天使の羽根を


傷口は、見ていても決して気分良いもんでもなく。


ただ俺は、芹霞にこんな傷がつかなかったのだけにほっとした。


俺は男だし、しかもいい男でもねえし。


今更傷の1つや2つ、何てことねえけれど、


芹霞は女だ。


しかも、いろんな男を惹きつけるだけの美人だ。


あいつにこんな傷、つけてはいけねえ。


つけてしまったら、俺が全責任とって、俺の生涯かけて芹霞の面倒を見てやる。


どんな顔になっても、どんな身体になっても関係ない。


俺がずっと付き添って、面倒みてやる。




「………」



むしろ…――


その方が嬉しいかも。



大義名分……欲しいかも。



ぼっ。



そんな日常を想像したら、顔から火噴いた。



待て待て、違うだろ。



問題はそこではなく、俺の身体でさえ、まだ治癒できないくらいのものを、芹霞の身体につけたくはないということで。


責任、とかの問題じゃなく。



まあ。


……とらせてくれて、全然構わねえんだけどよ。



「……ん? 何だろ、この白いべろべろ」



傷口を良く見れば、何かがべとべと塗りたくられている。


拭いちまおうかとも思ったが、諦めた。


その動きすら面倒だ。


左腕を動かすことはできるけれど、ちょっと動かすだけで、息があがって仕方が無い。


しかも何だ?


キーンって、言う音……耳鳴りか?


やべえよな。


俺、体力だけが取り柄なのに、


俺から体力なくなったら何残るよ?



「……はあ」



残るのは安っぽい橙色だけじゃねえか。



天井がぐるぐる回る。


頑張って上体起こして何歩か歩いてみたけど、

凄え吐き気と眩暈で歩けたもんじゃねえ。


慌ててベッドに逆戻り。


情けねえ……。


このベッド、嫌なんだよ。


何で俺が姫ベッド?


ヘタレな俺への、あてつけか?


そこまで俺、女々しいのか?


本当に気が滅入る。

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