あひるの仔に天使の羽根を
その時、ばたばたと慌ただしい音がした。
「紫堂様!!!?」
あの女……、
昨日の宴で櫂に一目惚れした、
――須臾、だっけか?
着物を振り乱して部屋に飛び込んできた。
「ご無事でしたか、紫堂様!!!」
そして、当然というように櫂の胸に飛び込んだ。
そのいきなりの乱入者に、俺はただ呆気にとられるだけで。
その一直線の具合が、着物着た子猪彷彿させ、噴き出しそうになった。
芹霞がどんな顔をしてそれを見つめていたかなんて気づくこともなく。
「各務の力をもってしても、咎人の処遇は免罪されませんでした。申し訳ございません、紫堂様!!!」
この女も各務の娘だから、玲の為に根回ししようとしてくれたのか。
中々気が利く女かもしれない。
須臾から放たれるこの匂い……
この赤ん坊みたいな部屋、この女のものか。
すっげえ、櫂に馴れ馴れしくべたべたしているけれど、俺がぶっ倒れている間に、2人に何があったんだろう。
まさか櫂に限って、手を出したりなんかしないだろうし。
大体、櫂は嫌がっている。
嫌がって身体を離そうとしているのに、須臾が離そうとしない。
一喝しない櫂を思うに、きっと"紫堂櫂"として出来ねえ理由があるんだろう。
もしかして俺のせいか?
俺、迷惑かけちまってたのか?
多分――そうなんだろう。
あの女のベッド分捕っていた状況から想像する分には。