あひるの仔に天使の羽根を
櫂と須臾を引き離したのは、意外にも桜で。
「色々とご親切、心より感謝致しますが、ここからは紫堂の領分。後はご心配なく。今は私達に櫂様をお返し下さい」
関係ねえ奴は、とっとと去れ。
簡単に言えばそういうことだろう。
「返す…なんて、私……奪うつもりなんて。私はただ紫堂様のお力になりたくて」
何だかよ――
すげえ苛々すんだよ、この女。
清楚ぶれば、無邪気ぶれば、全て許されるって、櫂の1番になれるって勘違いしてる痛い女。
俺達の絆に、簡単に割り込めると思うな。
まずは空気読めよ。
俺はどうも、この女から純粋なひたむきな愛を信じられないらしい。
理屈ではなく、本能が感じてる。
「奪うも何も。櫂様は元より"私達の"櫂様ですので」
お前に拍手をやりてえよ、桜。
どうやら桜も、いい印象を持っていないらしい。
「玲は何処にいますか?」
桜を手で制した、櫂の笑顔が硬い。
完全引き攣っている。
「多分、"中間領域(メリス)"にある鏡蛇聖会の教会の中かと」
須臾の答えに、櫂は頷いて立ち上がる。
「あ、紫堂様。駄目です。"男"の方が迂闊に教会に近づけば、呪いが下されます」
呪い?
「此の世のものとは思えぬ魔物になってしまう恐ろしい呪い。それを鏡蛇聖会は"蛇の呪い"として忌み嫌います。だからこそ罪を犯した"男"は教会の特殊で厳重な地下牢に入れられ、"断罪の執行人"の審判を待つことになります」
牢屋に入れられてるのか、玲は。
「じゃあ、やっぱりあたしが行く」
突然芹霞が立ち上がる。
凄く――冷たい眼差しをして。