あひるの仔に天使の羽根を

・衝動 :桜Side

 桜Side
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何で――


こんなことになったんだろう。



私は着替えながら、自問を繰り返す。


弾き出された1つの答え。



それは――。


あの馬鹿蜜柑のせいだ。



また、芹霞さんに盛った。


以前の件は、かなり譲歩して"正気ではなかった"と情状酌量の余地もあるかもしれないが、端から正気な今度ばかりは状況が違う。


目の前で、"男"を見せて芹霞さんに覆い被さった。


2ヶ月前のあの時と同じように。


私がいる、目の前で。


睦み合う姿が、酷く腹立たしく、酷く哀しく――。


私の抑止が無効化されたあの事態は、不可抗力的に繰り広げられたあの光景は、確かに私の中の何かを刺激し、未知なる領域が拡大するのを感じていた。


私は、私を侵すその正体不明な領域が存在する現実に我慢ならず。


私に、私が預かりしれぬ部分があるという事実が許せなく。


だからより一層、私を刺激する煌に殺意が芽生えた。


櫂様や玲様の真情は如何ばかりだろう。


櫂様の顔は悲痛さを通り越して、感情が死んだように無表情で。


目の前の芹霞さんと目を合わせたまま、無言を貫き通す。


判って欲しいのだ。


誰よりも芹霞さんに、櫂様自身の心情を。


目の前で、煌を払い除けてもらいたかったのだと思う。


たとえ櫂様のためでなくとも、彼女の心に他の男を拒んで欲しかったのだと思う。


だけど芹霞さんは怯えたまま、動かずに。


その間も煌の唇は、芹霞さんに近づいていき――。


場の緊張を崩したのは玲様で。


白い顔が青ざめ、彼もまたやり切れなさに表情を崩し、そして怒りを含んだ眼差しを2人に向けて。


芹霞さんがそれに気づき、白目を剥きかけた時。


実力行使に出たのは他ならぬ私で。


傍観者たる立ち位置にいる私は、煌と重なる芹霞さんを認めたくなくて。


何の権利があって、芹霞さんに手を出せる?


たかが彼女と同じ家に住む"幼馴染"なだけで。


櫂様と肩を並べられる玲様とは立場が違うのだ。



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