あひるの仔に天使の羽根を
「ちょっと待て、俺は芹霞を行かせるなど……」
「櫂は黙ってて」
ぴしゃり。
芹霞の言葉に、櫂は何か言いたげにしていたが黙り込んだ。
「大丈夫、紫堂。ボクも行くから。しかし修道服ね……」
遠坂が困ったように、頭を掻いた。
「せめて実物、コスプレで用意されていればよかったのに」
「修道服は特殊なものでして……例え各務でも、教会に貸与を申請しなければなりません。申請して約3日」
「待てない」
芹霞が言い切り、そして何かを考え込んだ。
「……ちょっと待って。手にさえ入れればいいのなら……」
そして笑った。
能面ではなく、希望に満ちた笑い。
「手に入れてくる」
「どうやって?」
俺の問いに、芹霞は内緒と薄く笑った。
「日が翳る前に、必ず手に入れる。
そしたら、あたしに玲くんの処に行かせてね?」
この時の俺は。
芹霞が修道服を本当に手に入れてくるとは思わずに、
だから俺1人で玲を迎えに行こうと思っていた。
芹霞を行かせられるわけがねえ。
例え櫂が了承したとしても、俺でさえぶっ倒れた不気味な土地で、芹霞が無事で切り抜けられるという保証がないから。
外の明るさから考えれば、あと1時間もしねえで日が落ちる。
だからとりあえず今は、言い出したら聞かない芹霞の好きにさせて、"中間領域(メリス)"を行き来出来る最初の時間を待つことにした。