あひるの仔に天使の羽根を
 
――離れていよう。


そう言ったのは確かにあたし。


拒絶する櫂を制して、あたしは櫂から顔を背け、

そしてあたしは完全に、櫂の居る世界を拒絶した。


あの時のあたしの吐いた言葉以上に、

櫂に抱きつく須臾を

須臾に抱きつかれる櫂を

見ていたくなかったから。


随分と仲良くなっている2人。


あたしは遠くからそれを見つめ、

2人の間には入れない。


櫂は入れようともしない。


あたしと須臾の扱いは、決定的だ。



主に惚れ込んでいる煌や桜ちゃんもよくは思っていないらしい。


あたしは、あたしのこの感情が正当のものだと思いこむことで、そこに隠されたモノを知らないふりをする。


どす黒い穢れた感情を見ないフリをする。


それが露わになる前に、櫂の前から姿を消したかった。



今――


隣に須臾が居る。


部屋を出る時、何故かあたしを追いかけてきた須臾に、

あたしは矜持を捨てて懇願したんだ。


"久遠に会わして欲しい"と。


須臾はびくりと反応して、あたしをまじまじと見つめた。


「……。兄様はおよしになった方が賢明です」


何か勘違いしているらしい。


笑いたくない顔を無理矢理笑いを作り否定した。


「そうですよね。貴方には玲さんがいますものね」


何だか――


この兄妹は、やたらと"玲"の名を出してくる。


玲くんが一体何だと言うんだ。


「私が、兄様を連れたら――ますか?」


「ごめん、よく聞こえなかった」


「兄様を連れたら、紫堂様を私にくれますか?」


須臾は突然奇妙なことを言い出した。




< 423 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop