あひるの仔に天使の羽根を

「"聖痕(スティグマ)の巫子"たる私には、5日後の儀式までしか自由な時間がないんです。だから――少しだけでも紫堂様を下さい」


何だか意味不明な単語が出てきたけれど。


だけど突然、弱々しい声で頭を下げられたら。


それ以上強い言葉は続けられなくて。


「……全ては櫂の意思だから」


全てを櫂に擦り付けるしかできなくて。


「じゃあ……」


須臾が顔を上げた。


「紫堂様がいいと言えば、頂けるんですね?」


それは恋する乙女の顔というよりは、

獲物を毒牙にかけようとする妖艶な女の顔。


そう――


がらりと顔を変えた。



驚いた。


まさかそんな顔、持っているとは思わなかったから。


だって清楚な少女だったじゃない。


どうしてそんな肉食系の顔になるの?


――須臾?

――ああ、あっちの方ね


そんな久遠の言葉が頭に鳴り響いて。


須臾という女に、あたしは得体の知れぬ恐怖を感じた。


嵐が来る。


そんな気が。

< 425 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop