あひるの仔に天使の羽根を
「"聖痕(スティグマ)の巫子"たる私には、5日後の儀式までしか自由な時間がないんです。だから――少しだけでも紫堂様を下さい」
何だか意味不明な単語が出てきたけれど。
だけど突然、弱々しい声で頭を下げられたら。
それ以上強い言葉は続けられなくて。
「……全ては櫂の意思だから」
全てを櫂に擦り付けるしかできなくて。
「じゃあ……」
須臾が顔を上げた。
「紫堂様がいいと言えば、頂けるんですね?」
それは恋する乙女の顔というよりは、
獲物を毒牙にかけようとする妖艶な女の顔。
そう――
がらりと顔を変えた。
驚いた。
まさかそんな顔、持っているとは思わなかったから。
だって清楚な少女だったじゃない。
どうしてそんな肉食系の顔になるの?
――須臾?
――ああ、あっちの方ね
そんな久遠の言葉が頭に鳴り響いて。
須臾という女に、あたしは得体の知れぬ恐怖を感じた。
嵐が来る。
そんな気が。