あひるの仔に天使の羽根を
「それでは私は、紫堂様の元に戻りますので」
"戻る"
息が出来ない。
消え行く須臾を思わずあたしは引き留めてしまう。
「櫂次第だから」
「はい」
それは自信に満ちた顔で。
あたしは――
引き下がるしかなかった。
気を取り直し、あたしは頬をぺちぺち手で叩いて深呼吸。
――トントン。
目の前のドアをノックする。
応答がない。
――トントン。
ドアに耳をすましてみたが、物音がしない。
留守?
居留守?
居留守だったら赦さない。
こっちは用事があるんだから、居るならさっさと……
「――…のにっ!!!」
甲高い女の声と、何かが叩かれる音に驚いたあたし。
女の泣き叫ぶ声がする。
隣の部屋かららしい。