あひるの仔に天使の羽根を
 

野次馬根性で覗いてみたい気もするけれど、そんなことよりもまずは修道服。


ドアノブをガチャガチャしても、ドアは開かず。


代わりに開いたのは、隣室で。


「私はこんなにも貴方を愛しているのに!」


……修羅場か?


シーツを身体に巻き付けた、半裸状態の女が飛び出し、あっというまにあたしの前を駆け抜けていった。


あの姿で。


「彼が選んだのは、この私よっ!!!」


違う声音の、勝ち誇ったかのような女の声。


修羅場だ。


女同士が居合わせたのか。


そこに無情な声が響き渡る。


「あのさー。オレは誰も選んでいないよ。君にもあの子にも、オレはただお役目果たしただけ。勘違いしないでよ?」


この艶やかな声音は――各務久遠。


「ほらほらもうお帰り。オレは今日、日が沈むまでにあと3人相手しないといけないんだから。君だけに構ってられないんだ」


あ、あと3人って何?


何だか今ここに居てはいけない気がして、忍び足で立ち去ろうとした時、またシーツに身を包んだ女が部屋から飛び出してきた。

あたしと視線がぶつかる。


すると、


「彼は役目で相手してるのよ、いい気にならないで!!!」



なんと。


あたしに平手打ちをして駆けていってしまった。


じんじんする頬を抑え、あたしはただ呆然。


もしかして。


もしかしてだけど。


あたしは順番待ちしている女に思われたんだろうか。



「……はあ」


その時、わざとらしい程大きい溜息の音。


「……また覗き?」


蠱惑的な美貌を持つ男。


瑠璃色の瞳を冷たく光らせた各務久遠が、開け放たれたドアに凭れるようにして、あたしを見ていた。



< 429 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop