あひるの仔に天使の羽根を
野次馬根性で覗いてみたい気もするけれど、そんなことよりもまずは修道服。
ドアノブをガチャガチャしても、ドアは開かず。
代わりに開いたのは、隣室で。
「私はこんなにも貴方を愛しているのに!」
……修羅場か?
シーツを身体に巻き付けた、半裸状態の女が飛び出し、あっというまにあたしの前を駆け抜けていった。
あの姿で。
「彼が選んだのは、この私よっ!!!」
違う声音の、勝ち誇ったかのような女の声。
修羅場だ。
女同士が居合わせたのか。
そこに無情な声が響き渡る。
「あのさー。オレは誰も選んでいないよ。君にもあの子にも、オレはただお役目果たしただけ。勘違いしないでよ?」
この艶やかな声音は――各務久遠。
「ほらほらもうお帰り。オレは今日、日が沈むまでにあと3人相手しないといけないんだから。君だけに構ってられないんだ」
あ、あと3人って何?
何だか今ここに居てはいけない気がして、忍び足で立ち去ろうとした時、またシーツに身を包んだ女が部屋から飛び出してきた。
あたしと視線がぶつかる。
すると、
「彼は役目で相手してるのよ、いい気にならないで!!!」
なんと。
あたしに平手打ちをして駆けていってしまった。
じんじんする頬を抑え、あたしはただ呆然。
もしかして。
もしかしてだけど。
あたしは順番待ちしている女に思われたんだろうか。
「……はあ」
その時、わざとらしい程大きい溜息の音。
「……また覗き?」
蠱惑的な美貌を持つ男。
瑠璃色の瞳を冷たく光らせた各務久遠が、開け放たれたドアに凭れるようにして、あたしを見ていた。