あひるの仔に天使の羽根を
櫂様が芹霞さんを隣室に放り込んだ後、遠坂由香が現れた。
三日月型の目で"むふふ"と口に手をあて笑いながら。
多分――。
彼女の出現無ければ、空気は重いままだったろう。
その点では救われたが、まさか、
――ストレス発散は、ゲームがよしッ!!!
漁ったキャリーの中から出てきた汎用テレビゲーム機。
――先に言っておくけど、ボクは姉御直々に代理を頼まれているからね。ボクの指示は姉御の指示だと思ってね?
緋狭様の偉大さを信奉している私達にとって、それは条件反射的に逆らえぬ程の強制力を持って。
ゲーム慣れしていない私まで引っ張り込んで、私と櫂様と玲様と馬鹿蜜柑が競ったのはカーレース。
1階のシャンデリアがついた大広間に、あっという間に用意された大画面。
審判役の遠坂由香が、何処から出したか笛を吹いて4人対戦スタート。
本来ありえない事態が開始されたのは、"緋狭様"の名の威力故に。
同時に――。
乱された精神を…鬱屈した思いを、他に解消する術はなかったのは事実だったから。
たかがゲーム、されどゲーム。
画面の中の私達は、容赦なく邪魔する相手を車体で叩きのめして。
それが赦されるのは、遊戯だからで。
現実世界では、絶対あり得ない主従関係がある。
結果――。
櫂様はさすがに完璧に1位だったのだけれど。
2位が何故か馬鹿蜜柑。
何と私が3位で。
玲様が――最下位。
途中まで玲様は、余裕の1位だったのに、遠坂由香が玲様の耳元で何かを呟いた途端、玲様はコントローラーを手から落し、慌てて拾い上げた時にはもう勝敗はついていた。
――ビリとブービーにはボクからの罰のプレゼントッ!!!
その結末を待ち兼ねていたかのように、彼女が用意していたコスプレセットは、初めから私と玲様用のもので。
それ以外の可能性は考えていなかったらしい。
緋狭様の指示なのかは判らないけれど。
少なくともあの玲様を動揺させたのは、芹霞さん絡みの何かを囁いたからで。
悪魔…だ、彼女は。