あひるの仔に天使の羽根を
 

「そう思いこんでいるだけじゃない。現にあんたは、奪い合いされているくらい、人から愛されているじゃない」


「ははは。皆がオレに執着するのはただオレの姿が珍しいからさ。珍しくなければ、こんな馬鹿げた贖いをしていない。

滑稽だよ、オレにとって人間なんてね。本音と建前はいつも別にある。

皆がオレに群がるのは、珍品を手に入れたいというただの所有欲。身に付け、自慢したいだけなんだ。だから皆口にするのは上辺だけの甘い言葉。そして最後にはこれが貴方の為、どうして判ってくれないんだってヒステリーをおこす。オレは欲望を満たす為だけの道具だよ。

オレはそれについて別にとやかく言うつもりはないけどね。怒りたい奴は怒ればいい。憎みたい奴は憎めばいい。勝手にすればいいんだ。

オレは全て判っている。君だって」


「あたしを――」


何故か――涙が頬を伝った。


「他の女と同じにするな、馬鹿者ッッ!!!」


悲しすぎる、各務久遠。


あまりに考え方が刹那的で、破滅的で。


「どうして、人を信じられないの?」


「……」


「どうしてあたしを信じられないの?」


「……」


「一体何があったの?」


そう思うに至る過去は何。


「…――っ」


久遠は何かを言いかけ、そして口を噤んで顔を背けた。


一瞬――。


その瞳の色が、燃えるような赤色になった気がするけれど。


今は――。


寒さを伝える瑠璃色で。


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