あひるの仔に天使の羽根を


それがあまりに奇怪で、だからこそあたしは平然といられたのかも知れない。


欲に満ちた性的な交わいよりも、奇妙な儀式のように見えたから。


そんな現場をただ眺めているあたしの存在に、久遠はやがて動きを止めて怒鳴った。




「どうして君は此処にいるのッ!!」




「いやいや、あたしにお構いなくどうぞ?」


そう言ったのに、やる気も失せたとお相手を部屋から出してしまった。


ぼんきゅっぼんのナイスバディの女はあたしを睨み付けて出ていく。


そして気まずく部屋に残るのは、あたしと久遠。


「……何してんの?」


それは怒りに満ちた、紅紫色。


「もう、用はないはずだよね?」


行為の途中を邪魔されて怒り狂っているのかと思えば、そうでもないらしい。


見ている限りにおいては、女とどんなことをしていても久遠の顔は表情を崩すことなく、いつもの破滅めいた笑みを湛えるだけで。


多分、この男は最初から最後までこんな調子なんだろう。


だから行為を中断してもしなくても、それは彼にとってはどうでもいいことで、だとしたら怒っているのは、あたしが此処にいたからに他ならず。


「"中間領域(メリス)"への道、教えて?」


「コウガンムチっていう言葉、君に贈って上げるよ」


コウガンムチって何ですか?


何だか武器の名前みたいだね、そう笑ったあたしに、久遠は頭を抱えた。


「"厚顔無恥"!!! 恥知らずってことさッッ!!」


最初からそう言えばいいものを。


あたし四字熟語は大嫌いなんだから。


そう言えば、途轍もない大きな溜息を寄越された。
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