あひるの仔に天使の羽根を
そうして私と玲様は、にやにやした遠坂由香に誘われ、各々道具をもって着替えたわけだけど。
その間櫂様はふらりと居なくなり、宴会用の椅子を引っ張り出して座った馬鹿蜜柑が、胡散臭そうな眼差しを、衝立の向こうで着替える私達に向けている気配を感じた。
私は大きく溜息をつく。
何が嬉しくて男装をしないといけないのか。
私の性別は男だけれども。
もう何年も女をしていれば、男の格好に戻るには抵抗がある。
仕方なく、長い髪をまとめ上げ、用意された鬘を被る。
これは伊達眼鏡?
細かな芸が好きな女だ。
「桜お前さ、好きになるのは男なわけ?」
馬鹿蜜柑が、衝立越しに唐突に尋ねてきた。
好き――?
「馬鹿だなあ、如月。葉山は性同一性障害とかじゃなく、ただ女装が趣味なだけで心はきちんと男だ。ちゃんと女が好きだよ」
好き――?
「おい、遠坂。お前断言するけどよ、証拠あんのかよ?」
好きって何――?
「そりゃあるさッ!! ボクは知っているんだからね。葉山は――」
何故か――。
私は衝立を突き飛ばし、慌てて遠坂由香の口を手で押さえた。
だけど抑える必要もなかったようだ。
皆、男装を終えた私を見て、言葉を失っていたのだから。
ああ、何か恥ずかしい。
こんな茶番はこの場限りに――。
「グッジョブッ!!! 神崎も吃驚だよ。君を惚れちゃうかもッ!!!」
その一声で、場はしんと静まり返った。