あひるの仔に天使の羽根を
「そう言えばさ、ここって夜にならないと、"中間領域(メリス)"と"神格領域(ハリス)"の人達行き来出来ないんでしょ? どうして久遠の処には、昼間っから堂々と、"中間領域(メリス)"の女がうろうろ出来るの?」
「オレの立場は特殊なんでね」
自嘲気な笑いが落された。
「次期当主だから?」
「………。君には関係ないことさ。
最後の情けだ。……オレが人を呼んでやる。道筋はそいつから聞け」
そして壁にある何かのスイッチを押した。
「え~。久遠に教えて欲しい」
「冗談!! そこまで面倒見る義理はない」
「ケチ!!!」
やがてドアから1人の給仕が現れる。
先程あたしが道を聞いた女だ。
久遠から命じられ、そして困惑したような顔で久遠に何か言っている。
「荏原とオレと、どちらが立場が上だ?」
その決定的な言葉で、給仕は渋りながらもあたしを連れて外に出て、此処からひたすら真っ直ぐに進んで下さいと、正門を指差した。
帰り際、一度もあたしを振り返りもしなかった久遠。
あたしの存在を丸ごと無視して、そしてまた他の女と虚しい行為を続ける気だろうか。
心が満たされるならまだしも、ずっとあんな顔をして。
何だか――切なくなった。