あひるの仔に天使の羽根を
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未だ鳴り止まぬ歓声と拍手。
密かにゲームの催しを愉しみにしていた僕にとっては、それを横目でしか見れないことが残念に思う。
視界にちらちらと映る、白い布を纏った人影。
目映い光。
衝撃音。
きっとこの会場自体が、『KANAN』の仮想現実世界…遊戯用の仕様になっているのだろう。
模擬対戦でも始まっているのか。
僕の両腕を掴む手。
決して振りほどけないわけではないけれど、重罪人を拿捕したかのように集団で連行されている身の上としては、立ち止まって見物をできないことを残念に思ってしまう。
それだけ、僕の心にゆとりがある証拠なのか。
僕は、由香ちゃんと入ってきた入り口とは反対側にある……多分、"中間領域(メリス)"へと続く出口へと連れられ、一度会場の外に出た後、すぐ隣にある入り口に入る。
"女性の方は左の扉を、それ以外は右の扉を"
機械的な案内声(アナウンス)。
僕は、"それ以外"の扉に連れられた。
全裸で逃げ出した…烙印の押された少年の記憶が蘇る。
彼と同じ場所に行き着くのかは判らないけれど、僕も彼も行き着く先は、楽園ではないだろう。
背後で閉まるドアを感じながら、無機質なコンクリートの細い通路を歩いて行く。
左右に分岐する道はあったが無視されて、ひたすら真っ直ぐ直進する。
確実に人の手が加えられている、トンネルのような雰囲気。
赤い警備灯が壁に等間隔で点灯し、仄かな明るさで足下を照らす。
電気が通っているのだろうか。
ポケットの中の月長石にこの電気を蓄えられるか密かに試してみたけれど、微かな反応があるだけで特別な変化はなく。
僕の力も、静電気にもならぬ微弱なもので。
やはり、阻む"何か"は健在しているらしい。
しかそれら微弱な電流は、このトンネルの壁を越えた一方向に流れていて。
もしそこに、微弱なりとも多くの電気が集結しているのならば、僕はその場所であれば、操れるかも知れないという希望を抱いた。