あひるの仔に天使の羽根を
いつの間にか道は終焉を迎え、行き止まりの先に黒い神父服の男が立っていた。
片足が義足の男は、陰鬱な表情で一礼していて。
通り過ぎる時に聞こえた男の呼吸音。
恐らく――喉が潰されて、声が出ないに違いない。
僕は両腕を黄色い神父に掴まれたまま、ひんやりとする石畳の螺旋階段を下りていく。
湿った匂いと、黴の匂い。
それに混じるは、微かな鉄の匂い。
乱暴に入れられた薄暗い場所は、どうみても牢獄で。
鉄格子の一室に入れられた。
そして僕は、両手両足を壁に取り付けられた鉄の鎖で繋がれ、さらには足と手首の黒枷に大きな南京錠までかけられた。
じゃらりとした太い鎖は長さがあり、それなりの範囲での自由はあるものの、鍵を何とかしなければ僕はここから逃れられぬようだ。
さて、どうしようか。
少々面倒なことになったと、僕は少しばかり溜息をつく。
紫堂の力が使えれば何てことはないのだけれど、使えぬ状況ならば、僕自身の体術で脱しなければならない。
動きを拘束された中、僕の動きで鎖を断ち切ることが出来るのか。
牢獄には僕の他にもいるようで、所々から絶叫が聞こえてくる。
紫堂において、拷問をかける側に居た僕としては、そんな絶叫を聞いても大した恐怖は沸いては来ず、更には拷問をかけているのが僕ではないことに感謝をして欲しい心地すらしてくる。
煌や桜に言わせれば、拷問時の僕は容赦ないらしい。
僕はさして実感はないけれど、豹変ぶりは凄まじいらしい。
拷問というのは聞き出したい"何か"がある時にするもので、僕は昔から捕まえた敵から聞き出せないことはなかった。
この絶叫の度合いからするに、哀れ子羊は"何か"を強迫されているわけではなく、ただ加虐趣味者に嬲られているだけにも聞こえる。
誰に?
答えは1つしかない。
ここの見張りを任せられている…看守の黒い神父の男に、だ。