あひるの仔に天使の羽根を
「ここは"断罪の執行人"の裁きを待つ者の部屋だ。"断罪の執行人"と対面するまでの重罪人の待合室。決して天国ではないぜ?」
僕を連れた黄色い神父は消え、残ったのは元々此処に居たらしい黒い神父。
男は僕にかけた鍵を鍵束に追加してポケットにねじ込んだ後、僕がその絶叫に怯んでいるとでも思っているのか、下卑た笑いを顔に浮かべて顔を覗き込んできた。
無精髭の背中が丸まった初老の男。
前歯が何本か抜け落ちているせいか、時折ふしゅうふしゅうという音が漏れている。
「待合室…ねえ。その前にどうして悲鳴が聞こえるんだ?」
至って平然と、そして皮肉気に僕は聞いた。
「ま、時には待ちきれなくて、俺達"黒"が摘み食いすることもあるんだ」
「聖職者なのに……?」
男はいやらしい笑いを見せる。
「此処では、男は神父になるかしか生きられる道はねえ。神父といっても、ピンからキリまであるんでねえ?」
この男は、最低ランクの神父か。
「"断罪の執行人"はここに来るのか?」
僕の問いに、男はぐひぐひと奇妙な笑い方をした。
「こんな掃き溜めにあの方がくるわけないだろう。お迎えが来て連れて行かれるのさ、この建物上階の"裁きの間"へ。"咎男"にどんな裁きが下されるかは行ってからのお楽しみ」
この上に――"断罪の執行人"がいるのか。