あひるの仔に天使の羽根を
 

「此処の地の男は、勝手に女を抱けねえ決まりなんだ。なあ、お前……女みたいに綺麗な顔してんじゃねえか。何で女の格好してんだ? お前その気なんだろ、ん?」


荒く、臭い息が僕の顔にかかる。


「悪いようにはしねえ。"断罪の執行人"と会う前に逃がしてやることも、俺には出来るぞ。な、どうだ?」


何かがどうだ、だ。


だけど――


これはチャンスかも知れない。



僕は優しく微笑んだ。


「それはいいね。

丁度寂しい時だったから。

ねえ……来て――?」


鼻にかかったような甘えた声で、潤ました目を向けて。


僕が遠い過去相手にした女達の幻が、こんな時に役立つなんて。


心で嗤わずにはいられない。


いくら心が満たされなかったから、寂しかったからとはいえ、こんな女達に誘われるまま、流されるままに相手をしていた僕の過去を、芹霞には知られたくない。


少しでも誰かから必要とされたくて。

少しでも誰かから望まれたくて。

本当の"僕"に気づいて欲しくて。


だけどそれはただの言い訳なんだろう。


"女"を道具としてきたのは事実だ。


だから僕は、僕の過去の女性関係を聞きたがる芹霞から逃げていた。


――ねえ、玲くん。また煌が香水臭くてさ。


僕にそんな乱れた過去があるとは知らず、まるで育児相談のように、煌の行動を僕に訴えていた芹霞。


僕は曖昧に笑って、芹霞を宥めるしか出来なかった。


僕には、女に走る煌の気持ちが判るから。


僕と煌の違いは、僕は相手に精神的な悦楽を求めていたのに対し、煌は肉体的な快楽を求めたこと。


だけど。


結果――。


僕達は同じような…一瞬だけの虚しい解放感だけを味わい、何1つ満たされない現実を思い知るばかりで、その行為が如何に無意味であるか再確認するだけで。



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