あひるの仔に天使の羽根を
 
「お姉さん、迷っちゃったの?」


身を乗り出して、好奇心できらきら光る金色の瞳を向けてくる少年に、あたしの顔には自ずと笑みが零れて、頷いた。



「そうだよね、"罪の洗滌"したシスターがこんな場所にいるはずないものね」


少年は意味不明な言葉を吐いて、けらけらと愉快そうに笑った。


「ここは危険だよ? 今し方、性別を偽ってた"男"が堂々と混ざっていたみたいだし」


それは――玲くんのこと?


「あ、でもちゃんとそこの"黄色"が捕まえて牢に入れたらしいから、お姉さんそんなに心配な顔しないで?」


心配なのは、玲くんの処遇の方で。


「それで、その"男"はどうなるの?」


少しばかり震える声で聞いてみた。


「ん。上の判断によるけれど、何でも姿だけはそこそこ見れるらしいから、"断罪の執行人"の処刑というよりは、"アイガン"だろうね。"アイガン"の数と、現状の回転率の悪さ思えば、そっちの方が濃厚かな。

まあ、此処に対しての悪意が認められない場合だけどね。強制的な改宗によってどこまで力を持てるか判らないけれど」


「あ、あの…"アイガン"って?」


すると少年は、訝しげに目を細めた。


「おかしなこと言うね。たった今お姉さん、"罪の洗滌"に"アイガン"の処から帰ってきたんでしょ? 豊穣の儀式、してきたんでしょ?」


「???」


「……お姉さん、本当に"紫"だよね?」


あたしの暗紫色の服を指差す少年。


「まさか――騙してないよね?」


それは子供とは思えない、恐ろしく低い声で。


「判っているよね、"虚偽"は大罪だと言うこと」


あたしは――本能的な恐怖を感じた。


この子……普通じゃない。


直感だった。


元々話し方や会話の内容自体、"子供"じゃない。


恐らく。


彼を怒らせない方がいい。

< 456 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop