あひるの仔に天使の羽根を
「お姉さん、迷っちゃったの?」
身を乗り出して、好奇心できらきら光る金色の瞳を向けてくる少年に、あたしの顔には自ずと笑みが零れて、頷いた。
「そうだよね、"罪の洗滌"したシスターがこんな場所にいるはずないものね」
少年は意味不明な言葉を吐いて、けらけらと愉快そうに笑った。
「ここは危険だよ? 今し方、性別を偽ってた"男"が堂々と混ざっていたみたいだし」
それは――玲くんのこと?
「あ、でもちゃんとそこの"黄色"が捕まえて牢に入れたらしいから、お姉さんそんなに心配な顔しないで?」
心配なのは、玲くんの処遇の方で。
「それで、その"男"はどうなるの?」
少しばかり震える声で聞いてみた。
「ん。上の判断によるけれど、何でも姿だけはそこそこ見れるらしいから、"断罪の執行人"の処刑というよりは、"アイガン"だろうね。"アイガン"の数と、現状の回転率の悪さ思えば、そっちの方が濃厚かな。
まあ、此処に対しての悪意が認められない場合だけどね。強制的な改宗によってどこまで力を持てるか判らないけれど」
「あ、あの…"アイガン"って?」
すると少年は、訝しげに目を細めた。
「おかしなこと言うね。たった今お姉さん、"罪の洗滌"に"アイガン"の処から帰ってきたんでしょ? 豊穣の儀式、してきたんでしょ?」
「???」
「……お姉さん、本当に"紫"だよね?」
あたしの暗紫色の服を指差す少年。
「まさか――騙してないよね?」
それは子供とは思えない、恐ろしく低い声で。
「判っているよね、"虚偽"は大罪だと言うこと」
あたしは――本能的な恐怖を感じた。
この子……普通じゃない。
直感だった。
元々話し方や会話の内容自体、"子供"じゃない。
恐らく。
彼を怒らせない方がいい。