あひるの仔に天使の羽根を
「煌。桜と共に櫂の元へ。僕は船内を見回り、部下の様子及び必要に応じて治療を試みる」
頷いた私達が駆け出そうとした時。
「あ、あの~、ボクは~?」
泣きそうな顔の遠坂由香がおろおろしている。
「玲は行っちまったし、俺等についてこい」
私達は部屋を飛び出したが、奇妙な程に人気がしなかった。
ただ――床に残された血痕は。
元を辿ればそこには"部下"という名の給仕役の山。
一撃致命傷。喉を真横に裂かれている。
抵抗の跡など一切無く。
紫堂の警護団に身を置く者が、こんな簡単に?
まだ身体が温かい処をみれば、奇襲を受けてから時間は経っていない。
姿を見せぬ殺気はまだ健在で。
虎視眈々と、こちらの動向を窺っている気がする。
だからこそ私達は櫂様を護るべく、急いで螺旋階段を駆け上った。
ぐらぐらと揺れ、足下が狂う船内。
私は後手に回り、裂岩糸を張り巡らせ、周囲に罠をしかけた。
やがて感じる、手ごたえ。
――かかった!!
一瞬――。
あの男かと思った。
暗紫色のその服は。
そして首からかけられたロザリオは。
昨日私に"神を信じるか"と訊いてきた、恐らく"同業者"の胡散臭い男と同じで。
それが証拠に胸元の十字架には、蛇が絡みついている。
私が貰った――壊れたロザリオと同じ。