あひるの仔に天使の羽根を

・一脈 櫂Side

 櫂Side
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「櫂、ちょっとこっちに来い!!」




芹霞と須臾が部屋から消えた直後、煌に隣の部屋に連れられた。


まだふらふらと身体が揺れているらしく、俺を連れるというよりは、俺が荒い息繰り返す煌を支えながら歩いたのだけれど。


「おい……本当に大丈夫か?」



全員で無理やり飲ませた解毒剤らしきもの。


もし劇薬なら、今頃煌は此処には居ない。


玲が手に入れたものだから。


ただそれだけで、煌に飲ませたのは信念にも似た条件反射のようなもの。


一か八かの賭けのようなもので、ほんの少しだけ躊躇いがあったことは黙っておく。


「大丈夫だ。……死ぬかと思ったけど」


少しだけ。


恨めしげに睨まれた。



何だか暴れ犬の注射の現場に立ち会ったかのような、そんな気分になって俺は思わず笑ってしまった。


「……俺より。お前の方こそ、大丈夫なのか?」


ソファの背凭れに仰け反るようにして大きく座った煌が、顔だけこちらに向けた。


気だるげな様子とは裏腹に、痛いくらい真っ直ぐな褐色の瞳。


「酷え面だぞ、俺がお前に言うのも何だけど……」


「大事無い……」


俺は苦笑した。


「んなわけねえだろうがよ。……お前、芹霞とどうしたよ?」


「……」


「気味悪ぃんだよ、芹霞も。昔あったよな、あいつのあの不気味な笑い」


「……」


「あいつはもろ感情が表に出る奴だ。それがあんなになるまで何かを我慢するなんて、どうせまたお前絡みだろうが」


「……」


「あいつはいつだって、お前は特別だから」


それは消えるような小さい声で。



「……お前は本当に、俺が特別だと思うか?」



「ああ。……妬ましいくらいに」



不機嫌そうな精悍な顔を



「あいつは…俺には"永遠"を望んだことねえし。きっと玲だってねえだろ」



横に背けた。
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