あひるの仔に天使の羽根を
「勿論、お前に崇められるような、嫉妬されるような男じゃない。
いつ芹霞を奪われるか、びくびくしてる。
こんな奴さ、俺は」
そう自嘲気に笑って、天井を見つめた。
「櫂……」
煌が無表情で俺を見て…訊いた。
「どうしてんなこと、俺に言う?」
「お前がここに連れ出したからさ」
「あ?」
判らないというような、眉間の皺。
「…或る程度は予想ついていたんだろ、俺と芹霞の間にあったのが、俺にとって好ましくないことだったというくらいは」
「……」
「チャンスだったのにな」
「……」
「しかも俺は昨夜、お前を邪魔して桜を共に行かせたというのに」
「……」
「身体が多少でも動けるようになったなら、無理してでも芹霞の元に行きたかったろう。
本当に面倒見がいい…馬鹿な幼馴染だよな」
煌と出会って8年。
一緒に笑って、一緒に泣いて。
それは芹霞が居たからが理由ではなく
紫堂が煌にしたことへの罪滅ぼしが理由でもなく
紅皇の愛弟子で俺の護衛だからという理由ではなく。
俺と煌との間で、育ててきた絆も確かにあるから。
だからこそやりにくい恋敵。
俺は笑った。