あひるの仔に天使の羽根を
 

「勿論、お前に崇められるような、嫉妬されるような男じゃない。

いつ芹霞を奪われるか、びくびくしてる。

こんな奴さ、俺は」



そう自嘲気に笑って、天井を見つめた。



「櫂……」


煌が無表情で俺を見て…訊いた。



「どうしてんなこと、俺に言う?」




「お前がここに連れ出したからさ」


「あ?」


判らないというような、眉間の皺。


「…或る程度は予想ついていたんだろ、俺と芹霞の間にあったのが、俺にとって好ましくないことだったというくらいは」


「……」


「チャンスだったのにな」


「……」


「しかも俺は昨夜、お前を邪魔して桜を共に行かせたというのに」


「……」


「身体が多少でも動けるようになったなら、無理してでも芹霞の元に行きたかったろう。

本当に面倒見がいい…馬鹿な幼馴染だよな」


煌と出会って8年。


一緒に笑って、一緒に泣いて。


それは芹霞が居たからが理由ではなく

紫堂が煌にしたことへの罪滅ぼしが理由でもなく

紅皇の愛弟子で俺の護衛だからという理由ではなく。


俺と煌との間で、育ててきた絆も確かにあるから。


だからこそやりにくい恋敵。


俺は笑った。
< 465 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop