あひるの仔に天使の羽根を
 


「……"馬鹿"は余計だ、黙れよ」


ぷいと横を向いた煌の顔は、耳先まで真っ赤で。


今にも蒸発しそうだ。


だから俺は悪戯心が疼いた。


「煌、顔赤いぞ?」


「……」


「どうした、凄く真っ赤だぞ?」


「……」


「何だ、俺に浮気か?」


「違えよッ!!!」


俺は子供のように声をたてて笑ってしまった。


緋狭さんがからかいたくなる気持ちがよく判る。


煌は心に素直だから。


芹霞のように。


俺の笑い声が消えるのを見計らったかのように、煌が言った。


絞るような声で。



「俺……芹霞に本気なんだ」



切なげな褐色の瞳が向けられ、俺は思わず目を細める。


ずきん、と俺の心臓が痛んだ。



「本気で……とりにいく」



強い語調の台詞とは裏腹に、それは震えきった弱い声で。



「お前が駄目で俺がいいなんてことはありえねえ。

それくらいは判ってる。


だけどさ。

俺は取り柄がねえんだよ」


泣き出しそうなその瞳。


膝の上で組まれた煌の両手に力が篭っている。




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