あひるの仔に天使の羽根を
 

桜が――

須臾の頬を叩こうとしている。




やがて、



「紫堂様~!!!」



須臾が泣きながら俺に抱きついてきて。



「突然、あの人が突然……」



俺は桜を見た。


桜は一瞬だけ殺意めいた眼差しで須臾を睥睨した後、俺をじっと見つめ、そして観念したかのように目を伏せ項垂れる。



「申し訳ございません、櫂様。

桜は各務のご息女に手をあげようとしていました。どんなお叱りでも受けます」



「何故だ?」


すると桜は悔しそうに、小さい唇を噛みしめて、


「……。

桜は情緒不安定が「何故だ、桜?」


途中で畳み掛けるように、俺は再度同じ言葉を繰り返し、今度は優しい口調で聞いた。


「……。桜が全て悪「紫堂。これは、理由があって……」


今度桜の言葉を遮ったのは、遠坂で。


「遠坂じゃない。俺が訊いているのは…桜だ」


桜はそれでも頑なに理由を述べず。


だが大きい目は、何かを訴えるように鋭く光っていて。


だから俺は、


「桜が、怖がらせてすまなかった。非礼は俺が詫びます。どうかお許しを」


須臾に頭を垂らして謝った。
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