あひるの仔に天使の羽根を
「お前が手を上げるともなれば相当だったはずだ」
「で、でもさ!!! 普通は女の涙が勝つもんだよ? 女の涙って、無条件で勝てる無敵な切り札なんだよ?」
「須臾の涙と桜のどちらかを信じろというならば、俺は無条件で桜を信じるさ。紫堂の警護団長を桜に一任しているくらいだ、俺の目は節穴ではないと思っているけれどな。
だが、手を上げることだけは決してするな。どんな理由であれ、堪えろ。俺達の力は、例えかなり加減したとしても素人には兇器となる」
それは緋狭さんから言われ続けている、教えでもあったのだけれど。
桜はただ俯いたままで。
「桜の失態で謝罪などさせてしまい、申し訳ございません。
これからはどんなことがあっても抑えます。
櫂様……」
絞り出すかのような、その声に。
「桜は櫂様の元にいられて、光栄です……」
その声音の響きで、桜がどんな顔をしているのか容易に誰もが想像ついただろうが、俺はあえてそれに気づかぬふりをして。
「で、だ。どうしてあの女が1人で帰ってきて、芹霞はいない?」
「……。神崎は、須臾嬢の兄上に会いに行ったみたいなんだけど」
――せり。
各務久遠に!?
「その…要約すれば、兄上の相手をすることで、修道服を手に入れるつもりだろうって」
「相手って? 芹霞が頼み込んでいるのか? いつ見知ったんだろ。あれか、俺がぶっ倒れている時か?」
煌が怪訝な顔をした。
「ボクもよく判らないけれど、多分そうじゃないのかな。頼みこむだけならいんだけれど……」
「何だよ、遠坂。歯切れ悪いな。他に何だというんだよ?」
「ナニだというのか……」
「あ!?」
「いや、如月。ボクに威嚇すんなって。…ああ、判ったよ。言うよ。要するに神崎は兄上とベッドインすることで、望みを叶えていると」