あひるの仔に天使の羽根を
「「は!?」」
俺と煌は同時に声を上げた。
「須臾嬢は師匠を恋人だと思っているみたいなんだけどさ、恋人の為に他の男に身体捧げるのが、外界での女の勤めなのかとか聞いてきて」
「玲が恋人!? 何でそんな風に思うんだよ、ああ!?」
「だ、だからボクじゃなく、須臾嬢だってば!!!」
俺は居ても立ってもいられなくて。
気づけば部屋を……須臾の棟を飛び出して。
各務本家のドアを乱暴に開け。
驚いて駆けつけた使用人を無視をして。
「紫堂様、お待ち下さい」
いつからいたのか、荏原が俺の後を追いかけてきた。
「まず落ち着かれて下さいませ。
どうなさったのです、須臾様といい紫堂様といい……」
須臾もこちらに逃げ込んできたのか。
「久遠は何処にいる」
「え?」
「各務久遠。須臾の兄。各務の次期当主。それ以上どんな説明が要る?」
「い、いえもう十分過ぎるご説明ですが、久遠様が何か?」
「久遠の元に芹霞がいるだろう。出せ」
俺の頭は――
あの男に組み敷かれていた温室の光景が蘇るばかりで。
「只今、久遠様はお勤め中でございまして」
「出せ」
「だからその……」
「いいから出せ!!!」
俺が怒鳴った時、
「何? 誰? うるさいんだけど…」
何やら酷く苛立ったような声がした。