あひるの仔に天使の羽根を

・未知 桜Side

 桜Side
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正直――


人間ではないと思った。



櫂様の後を追って、各務本家へときた私達。


私達の声に無反応で、ひたすら前を走っていた櫂様が、荏原に強い語調で詰問した時、櫂様は全ての動きを止めたから――

促されるように櫂様の視線の後を追った私達は、絶句した。


ありえない程の美妙に象られた輪郭。


どこまでも中性的で、妖しげな色気湛えるその肢体。


はだけるように羽織った白いシャツから覗く、その身体は艶めかしく。


玲様の色香とも違う、言うなれば"肉体"が持つ淫猥で蠱惑的な誘い。


それに惑わされれば、彼の輪郭が朧で儚げに見えるけれど、

私には――判る。


彼は――

私達側の人間だ。


彼の肉体は、意識的に鍛えられたものだ。


それを隠す為に、扇情的な格好をしているだけ。



櫂様が荏原に所在を訊いた、各務久遠。


その荏原が男を見て、漏らした"若"。


櫂様の固い顔からすれば、彼がその本人に間違いないだろう。


記憶が確かならば、彼の輪郭は昨夜宴で乱痴気騒ぎを起こした男そのもので。


こんな美貌を、何故昨夜気づきえなかったのか。


私の観察眼が機能しなかったことが嘆かわしい。

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