あひるの仔に天使の羽根を
私の周りには、美しい男に溢れている。
櫂様や玲様は元より、あの馬鹿蜜柑だって…認めたくないことだけれどかなり整った顔をしている。
しかし。
目の前のこの男の美貌は。
身体の芯からくらくらと眩暈を惹起させる誘惑に満ちたもので。
決して櫂様達がこの男の美貌に劣っているというわけではない。
言うなれば、目の前の男の美貌は"異質"で。
私達の住む世界では、未知なる領域に属する美しさ。
想定できないからこそ、身震いするくらいの…得も知れぬ悪寒が背筋を走る。
人を惑わす、それはまるで…そう、悪魔のような美しさ。
櫂様とは決して相容れぬ、そんな美貌。
この地で初めて至近距離で対面したはずの櫂様と久遠は、互いに無言のまま、それでも明らかに強い敵意漲らせて。
攻撃的な光は、櫂様の方が強いけれど。
ふわりと漂う薔薇の香り。
各務久遠から漂うその香りは、温室にあった紫の薔薇の香りそのもので。
何となく。
櫂様が彼に敵意を向けている理由が判った気がした。
私と遠坂由香が温室に行く前に、きっと久遠も温室に居たのだろう。
そして今。
芹霞さんは久遠の元に行ったとならば。
――お兄様は女を堕落させる"蛇"。その蛇の誘惑に打ち克つものだけが、"生き神様"の作る楽園へ誘われます。
――恋人がいるのに"蛇"に堕ちるなど。がっかりですわ。所詮はその程度の女性だったのですね……。