あひるの仔に天使の羽根を
私はそれを見ていられなくて。
顔をそらして立つのが精一杯で。
ずきずきと痛むのは
傷か――心か。
気づけば櫂様が、私の頭を軽く叩き、
「……煌の処へ行くか」
そう笑った端正な顔は、私の主たるいつもの櫂様のもので。
私の前で真情を押し殺した櫂様に、私は寂寥感を抱く。
私には、櫂様は私的な感情を見せることなく。
私には、櫂様はあくまで私の主のままで。
それが溜まらなく、寂しくて。
櫂様に、ただの部下と扱われたのが悲しくて。
それを望んでいたのは私なのに、私は自分の心が説明出来ず……そのもどかしさに唇を噛んだ。
櫂様の切ない恋情に気づかないのは、目覚めた芹霞さんと須臾だけ。
私は、私達の仲に割って入ろうとする…入れると思っている須臾に苛々が募る一方で。
それでも芹霞さんの後を須臾に追わせたのは、少なくともこの地では、何か案があるらしい芹霞さんの安全を須臾が保証してくれるだろうと。
この部屋を提供してくれたという事実が、そう私に思わせた。
否――
恐らく芹霞さんの案というものが不成功に終わり、結局は私や煌が出向くことになるからと思っていたからかも知れない。
時間制限は日が落ちるまでということを誰もが判っていたから。
そしてその時間も間もなくだということを知っていたから。
そんな短期間に何も出来ないからと、好きにさせてしまったのかも知れない。
諦めてすぐ戻ってくると。
確かに場の空気はそうだった。