あひるの仔に天使の羽根を
そんな中、馬鹿蜜柑が動いた。
正直、私は芹霞さんの後を追うものだと思っていたけれど、馬鹿蜜柑の杞憂の先は櫂様だった。
隣の部屋で何が話されていたかは判らないけれど、それでも櫂様と煌の寄り添い連れ立つ姿は、同世代のただの友のように。
いつも煌に苛立つ、"身分不相応"の延長上にある…傲慢にも似た強引さで櫂様を連れ出せる煌の姿が羨ましいとさえ感じてしまって。
だからこそ。
1人で戻ってきた須臾の、挑発的な言葉に私は憤ったのかもしれない。
そして――
――無条件で桜を信じる。
その言葉に私は胸が苦しくなって。
主だ部下だと線を引いていたのは私で、櫂様は元より線など引いていなかったのだと、そう思った途端……切なくそして嬉しい衝動に襲われた。
寂しい心が潤ってきた。
そんな中、櫂様が芹霞さんを探して急に走り出したから、私も怪我を忘れて走ってしまった。
ずきん、ずきん。
身体が痛む。
薬が切れてきたのか?
切れるまでの時間が経ったのか?
私はもう、何処の部分が痛いのかもよく判らず。
隣の橙色は、心配そうな眼差しを私に向けていて。
「……寝てろ?」
先刻まではベッドから起きれなかったくせに。
回復してきたらこうだ。
だから私は、こいつが嫌いだ。
散々人を振り回すに良いだけ振り回して、その現実が判っていない馬鹿蜜柑。
それでも。
この馬鹿蜜柑は、櫂様にとって必要不可欠な存在であると感じたあの瞬間。
馬鹿蜜柑の立ち位置になって、腹の底から本音で櫂様と話したいと、
そうできる煌が羨ましいと思ったあの瞬間。
「馬鹿は馬鹿なりに役に立てるんだな」
そう呟く私に、
「ああ!?」
いつものように、威嚇してくる煌に、私は自然と笑みを向けた。