あひるの仔に天使の羽根を
 

ありえないその景色に、思わず目を細めた時。


紫堂という異能力者の強い血を持つ2人の併せた力は、


女に届く前に、不自然な角度で弾かれた。


女の持つ、小さな鏡。


玲様の結界を破れたのは、無効化出来るこの鏡のせいか。


それとも双月牙に仕込まれた、吸収出来る仕掛けのせいか。


どちらにしても、女の持つ武器は、紫堂の力を持つ者には分が悪く。


私か、煌か。


恐らく紫堂以外の者が相手するのが得策だと、戦闘の構えを取った時。


女は芹霞さんに対して、憎悪にも似た冷たい眼差し向けて。


ああ、最初から芹霞さんに憎悪を向けて。



「カナンに……近づくな。


近づけば、殺す


神の名の元に――」



海に飛び込んだ。



これから向かう島の名は"約束の地(カナン)"。


開催されるイベントは『KANAN』。


どちらのカナンかは判らぬ儘に。


まるで海に溶けてしまったかのように、一切の気配と痕跡を消し、


残ったのは怯えて蹲る芹霞さん。


胸元のペンダントを強く握りしめ、震えている。



震えているその姿はあまりに小さくて。



私よりも小さくて――。



こんな小さいものを、櫂様達は護り続けているのか。


こんなに小さいものを、皆が奪い合っているのか。


私はいつも、ただそれを傍観しているだけで。



「……」



私の中で何かが湧き上がる。


それは、支配欲にも似た"衝動"で。



危ない――。


このままでは、私は"男"に侵される。


仮初めの"男"に凌駕されてしまう。



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