あひるの仔に天使の羽根を
「葉山、大丈夫か? 顔真っ青だぞ?」
「大丈夫……」
「なあ、紫堂櫂。オレに喧嘩売る暇あったらさ、可愛い部下の面倒見て上げたら?」
そんな小馬鹿にした笑いが降ってくる。
いけない。
私のせいで櫂様を貶(けな)されてはいけない。
そう思えど、腹部は激しく痛んで、自然に条件反射的に私の身体はくの字になって。
そんな時。
「あらあら、大変じゃないの」
ねっとりと絡みついてくるような女声に。
震える顔を上げてみれば、目鼻立ちがくっきりとした華やかな美人で。
「樒様……」
「ご当主様」
荏原と給仕がそう呼び、揃って頭を垂らした。
「荏原、彼にベッドを。従医を呼んで手当を」
ずきん、ずきん。
痛みに、意識が薄らいでいく。
「……落ち着くまで、皆様一緒に夕食でもいかがかしら? 少しばかりお話したいのだけれど。須臾が泣いて飛び込んできた理由、知らないかしら?」
威圧的なその物言い。
櫂様が何かを言っているけれど、樒という女性は引く気はないようで。