あひるの仔に天使の羽根を
「ところで、司狼くん。この建物は何の建物だったの?」
あたし達が歩いているのは、関係者以外立ち入り禁止通路、らしい。
結局、あたしが立ち往生していた2つの扉ではなく、脇に隠されていたような黒い扉を司狼くんは開け、左右に拡がる通路の内、右側に進んだ。
「んー? 選別、のためかな?」
「選別って?」
「強い者を選ぶための儀式」
「あ…もしかして、式典?」
「さっきまではね。行かない方がいいよ。ここは今、凄まじいことになっているからね」
凄まじい?
それ以上の質問は、司狼くんは笑って答えてくれない。
格闘ゲームが何だかって玲くんや由香ちゃんが言っていたから、その格闘具合が激しいのだろうか。それとも狂乱じみた喧噪ということなのか。
会話がなければ、響き渡るのはあたし達の足音だけで。
「随分と真っ直ぐな道が延々と続くね。式典関係者はこんなとこ行き来してんだ、眠くなってきそう」
それはただ笑いながらの、世間話のつもりだったんだけれど。
笑いを交えた話をしないと、あたしは必要以上に司狼くんという不明確な存在を惧れ、ボロを出してしまうから。
「お姉さんさあ……」
不意に立ち止まり、司狼くんが言った。
「"中間領域(メリス)"から、どうやって"神格領域(ハリス)"に来たの?」
その金の瞳は鋭さを湛えて。
あたしが惧れていたような、危殆を孕んだ陽斗の面差しがあった。
警戒。
あどけない表情はそこには何もなくて。
やけに、服の白さが存在感を主張する。