あひるの仔に天使の羽根を
 

「ねえ、由香さん。私はいつまでこの格好をしていなければならないんですの?」


この姿に不安愁訴を覚えるならば、輪郭を持つ前に早く消さねば。


「ぶぶッ!!! その格好で、その口調はただのオカマだよ~、葉山ッ!!!

最低限"僕"じゃないと、神崎に嫌われちゃうよ~?」


それは反射的に。


伺い見た芹霞さんは、目をきらきらさせて私を見ていた。


完全な好奇心だ。


「桜ちゃん、"僕"って言って?」


私は思わず後退する。


「桜ちゃん、お願い?」


上目遣いの眼差しに、魅入られたように私は思わず口にしてしまう。


「ぼ、僕……」


何年かぶりの一人称。


それを聴いた芹霞さんは、私に飛びついた。


「桜ちゃん可愛いッ!!!」


更に、頬を芹霞さんの頬ですりすりされてしまった。


「やめろよ、芹霞ッ!!! 桜は初心(ウブ)な童貞なんだぞ!?」


私から芹霞さんを引き剥がした馬鹿蜜柑の台詞に、


何だか――無性にムカついた。


「痛えな、馬鹿桜ッ!!! 本当のことじゃねえかッ!!!」


橙色の馬鹿蜜柑は、くの字型に身体を折り呻きながら言った。



「腐れ切ったてめえに、勝ち誇った顔されたくないんだよッ!!!」


ああ、この馬鹿蜜柑。


私を怒らせる天才だ。


「女遊びが激しい煌よりは、何倍もピュアでいいじゃない。何だか女の子、いつまでも大事にしてくれそうだし」


自業自得だ。


馬鹿蜜柑は、芹霞さんへの反論を諦め悔しそうに顔を歪ませると、やがて気落ちしたように項垂れてしまった。


彼女に擁護されたのは、複雑な気分だったけれど。


「ああ――


櫂もこんな感じに育ってくれればな」


それは独り言のような呟き。


私を――櫂様と比較するなんて。




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