あひるの仔に天使の羽根を
桜はかなり幼い時から、煌は緋狭さんに師事してからすぐ身に付けたようだ。
桜は今まで誰にも師事したことがない。
それでいて警護団団長になる実力がある。
特に黒曜石を顕現させた裂岩糸での闘い方は、『鬼』の名に相応しい凄惨過ぎる場面もあった程で。
今は穏やかにしているが、僕と初めて相対した…まだ10歳にも満たない桜の顔はぞっとする程陰鬱で殺伐としたものだった。
噂には聞いていた。
当時の警護団長に、鬼のような強い息子が居ると。
警護団たる強い大人を凌駕し、早々に守護石を武器に顕現させることが出来た上、実戦に出してもその裂岩糸を器用に操り、電光石火で瞬時に大量の屍の山を築き上げても顔色一つ変えない冷酷な殺人鬼。
故に『漆黒の鬼雷』。
形勢不利、生存率絶望だと言われた苦戦から桜1人帰ってきたことがある。
よくこんなに小さいのに戻ってこれたと誰もが驚き称えた時、桜は淡々と語ったそうだ。
――足手纏いの味方を殺したから、楽に帰れた。
――僕の足を引っ張る者は赦さない。
――欲しいのは、力だけ。
当時、そうした桜を紫堂の手元に置いて良いものか、賛否両論があった。
紫堂に牙を剥く存在となるか、力強い味方になるか。
そんな状況の中、桜は平然と生きていた。
流されるだけの僕が、誰にも流されない桜に興味を持った。
そして僕は桜を挑発し、手合わせをした。
力には力で。
そこで見えるものを、僕は見てみたかった。
結果は――
僕の勝ちだった。