あひるの仔に天使の羽根を


それ以来だ。


桜が僕だけに懐くようになったのは。


笑うことはないけれど、敬意を示して僕の指示に従うようになった。


僕が、次期当主ではなくなっても、今も尚桜は僕に従ってくれる。


本来桜の主は櫂で、僕はただの上司にしか過ぎないけれど、僕を櫂同様に敬う桜。


その姿勢は何年経っても、女装をするようになっても変わらない。


しかし時折覗く冷酷さ。


それが消えていないことは事実だ。


丸くなったとはいえ、桜の心には未だ暗澹たる闇がある。


僕でさえ拒む深い闇がある。


そんな桜が唯一素を見せるのは煌だ。


紫堂に純粋培養され孤独に生きてきた桜と、過去はどうであれ緋狭さんに従事し芹霞と櫂の幼なじみとして…言わば鳴り物入りで桜と同格の地位となった煌。


生真面目な桜と、楽天的な煌。


感情が乏しい桜と、感情が顔に出やすい煌。


どこまでも対照的な2人。


僕は知っている。


桜は煌の天真爛漫さに憧れを抱いている。


だから毛嫌いしているようでいて、どんな時も煌を見捨てない。


本当に桜が煌を嫌っているならば、今頃煌の命はないはずだ。


即座に切り捨てるだけの冷酷さを持っている。


そのことに、桜はまだ気づいていないようだけれど。



< 491 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop