あひるの仔に天使の羽根を
そんなことを思いながら直進していたら、やがて行く手を阻む馬鹿でかい奇っ怪な建物が現れた。
艶ある黒色に赤い線が走っている、とげとげの形。
気持ち悪い存在感を主張している。
多分入り口は、赤い絨毯みたいな処だろう。
そう見当つけて赤色を踏めば、ウイーンという電子音。
訝しげに辺りを見回した俺に、やがて機械染みた女の声が聞こえた。
『武器あり。建物内には入れません』
大人しく立ってりゃ、即効拒否かよ。
大体武器って何だよ?
俺は空手の両手を眺めてしまう。
服だって、いつの間にやら昨夜の最後の記憶にある服ではなく、いつも俺が着ているようなラフな軽装に着替えさせられていたけれど、どう見ても誰かが武器なんて忍ばせた処で隠せるような服じゃねえの、機械は見抜けないんだろうか。
機械が阿呆でなく正常だというのなら。
可能性としたら……俺の偃月刀か?
俺の守護石の太陽石(サンストーン)に反応してんのか?
今、偃月刀に顕現できねえのに?
どう考えてみても、"武器"に思い当たるのはそれしかなく。
機械の認識の甘さに思わず笑いさえ出てきてしまう。
「ピアス棄てれば入れるってか?」
それでも俺の守護石。
安っぽい俺の橙色とおそろいの色合いの石。
未だこんな石っころが武器に化けるからくりを、"とにかく想起(イメージ)"としてしか説明出来ねえけれど、それでも緋狭姉から俺に教えられた最初の"基本"だから、絶対俺は自分から守護石は棄てたくはねえ。
というか、こんな処でこんな理由で棄てたら緋狭姉が怒り狂うだろ。
そうなったら俺の命はねえ。
試しにピアスを遠くに置けば、扉が開いた。
ピアスを拾って手にすれば、扉が閉まる。
やっぱり元凶はピアスか。