あひるの仔に天使の羽根を
しかし物音はなく。
何度も芹霞の名前を呼びながら足を進めれば、地面に水でも張っているのか、ぴちょんぴちょんとした足音に変わってくる。
闇。
闇。
闇。
俺の輪郭がぼやけていく。
そんな時、道の奥に仄暗いけれども微かな明かりが見えた。
月光が差し込んでいるらしい。
鉄格子の窓から上弦の光が。
「――!?」
此処は――
地下だったよな?
地下に月が見えるのか?
釈然としないまま足を進める俺の目は、月光に照らされた空間の薄色に慣れていった。
空間に妙な圧迫感を感じて見渡してみれば、何かかが…処狭しと高く積まれているようだ。
俺はそれが何だか判らなくて。
警戒レベルをMAXにして生け垣に近づいてみれば、噎せ返るような鉄の臭いにたじろいだ。
これは…血の臭いだ。
魚の腸(はらわた)が…腐ったような臭い。
その独特の臭気は、大量の"生ける屍"を相手にした2ヶ月前の記憶を通り越して、微かに記憶する8年前のものまで遡って、俺を刺激する。
制裁者(アリス)という殺戮集団の一員として、人を殺しまくった過去の記憶が。