あひるの仔に天使の羽根を
――芹霞ちゃああああん。
昔の櫂の泣き声が聞こえてくる。
俺は目を細めた。
俺の中の櫂は、初対面の時から悠然としていた『気高き獅子』で。
こんな怯懦にびーびー泣く奴じゃなくて。
そう、俺は芹霞の言う"8年前の櫂の姿"というものを知らねえから。
その俺が。
――芹霞ちゃあああん。
どうして、"櫂"だって判る?
何かが――
記憶の何かが靄がかってぼやける。
俺――
何か忘れているんじゃねえだろうか。
忘れてはいけない何かを
赦されねえ何かを
俺は――。
その時。
俺の目の前の山から、何かがころりと落ちて俺の足下に転がってきた。
後頭部。
また、鬘だろうか。
愚鈍な俺は、何故だか鬩ぐ心を説明出来ずに、だから安心させようと、足先でそれを軽く蹴って、"ほら鬘だろう?"って笑い飛ばしたかったんだ。
ごろり。
重々しい音が聞こえた気がしたのは、気のせいか。
それは、少しだけ転がり――
俺を見た。
白目を剥いた、恐怖に満ちた虚ろな目を。