あひるの仔に天使の羽根を
「珍味中の珍味と言われているのは、視神経が集まる目の周りでしたか。上腕二頭筋や大腿筋など赤身、内臓や男性器も美味しいとか。逆に人気がないのは、女性の乳房と尻だそうですね。性的には人気の場所が、食するときには人気がないとは面白いですよね」
樒は顔を歪めて睨んでくる。
動じずに返した俺がお気に召さなかったらしい。
「随分とよくご存じで。人肉以上に美味の肉が、此処"約束の地(カナン)"にはある。
その肉が何だかお判り?
今回それを紫堂さんに特別にお出ししてみたの」
わざとらしい笑み。
「さあ、お食べになって?」
ゲテモノ料理なのか。
「やめんか、樒」
樒を止めたのは、俺の斜め向いに座る初老の男。
神経質そうな粛々とした雰囲気を持つ彼は、宴の時に久遠に怒鳴った各務柾。
樒の兄らしい。
「そうだよ、母さん!! やめてよ、食事中に変な話!!!」
柾に同調したのは、俺の横で口に手を当てて柾同様不快そうに顔を歪めた――各務千歳(ちとせ)。
久遠と須臾の弟で、俺の2つ下にあたる少年。
目を腫らして同席した須臾は、何も語らず黙々と食べ続けている。
千歳は、母や兄と姉と同じ血を引いているとは思えない、平凡過ぎる顔立ちをしていて特徴なのは潰れたような大きな鼻。
それは柾と…この食堂の壁に掛かっている2枚の老若の男性の肖像画に共通する。
老いた男の肖像画は、俺の知る限りの各務翁のもの。
その隣の若い…といっても"初老"だけれど、その肖像画と酷似している処を見れば、2枚の画は間違いなく父子のものだろう。
千歳も柾も、その肖像画の主と同じ顔立ちだ。
そう思えば、久遠の美貌は異常すぎる程"異質"だ。