あひるの仔に天使の羽根を
――オトメゴコロを繋ぎ止めるのは、刺激だよ、師匠。
ゲームで負ける気もなかった僕に、突如囁かれた由香ちゃんの声。
――ねえ、師匠。勝手に釣った魚に満足しすぎて、餌あげるの忘れていると、退屈な毎日に飽き飽きして逃げたくなるものだよ?
僕と病室で暮らした2ヶ月は。
僕が望んで創り出した、あの切なくとも至福な時間は。
芹霞にとっては、退屈で飽き飽きするもの?
僕という存在は、芹霞にとっては刺激にならない?
芹霞が、僕から逃げる?
大体――
芹霞が僕と2人でいる時間を望んでいたかどうかなんて、僕は確かめたことがない。怖くて確かめられやしない。
僕はコントローラーを落してしまった。
――むふふ。姉御の言った通りの動揺。これで師匠のコスはいっただき。
そんな言葉さえ聞こえず。
女装は初めての体験だけれど。
いつもと違う僕に、新たな何かを感じてくれれば。
何でも良いから、芹霞にいつもと違う僕を。
そんな期待を込めて女装した僕。
予想外にも芹霞に好評で、芹霞はいつも以上に僕にすり寄ってきた。
櫂や煌の妬むような視線が、少々心地よく。
我ながら子供っぽいとは思うけれど。
芹霞から僕との距離を縮めてくる、その優越感に暫し浸った。
でもそれは"女性"と見られているからで。
僕は、芹霞に"嫁"、"母"…そして今日は"姉"の称号まで頂いた。
僕はれっきとした"男"なのに、"父"、"兄"…無論"夫"と見られたことはなく。
少なくとも櫂も煌も、芹霞にとっては"異性"なのに、僕だけは同性であっても違和感ないらしい。