あひるの仔に天使の羽根を
「まだ何も話してないんでしょ。
話してないのに話進めたら、
あいつみたいになっちゃうよ。
"刹那"みたいにさ」
俺が瞠目するのと、樒が久遠に飛びかかるのが殆ど同時だった。
「でしゃばるなッッッ!!!!
この悪魔ッ!!!!」
――バシーンッ!!!
樒が久遠の胸倉を片手で掴んで、反対の手で久遠の頬を平手打ちをしていた。
「お前なんか、お前なんかッ!!」
それは憎悪のような剣幕で。
唖然とした俺の前で、千歳と荏原が樒を引き剥がして別部屋に連れて行く。
そして残されたのは、俺と須臾と久遠で。
「何、見てるのさ」
久遠が頬を摩りながら、瑠璃色の瞳で俺を睨んできた。
「どうして叩かれた?」
素人の攻撃をなぜ甘んじた?
真意は伝わっているはずなのに、返ってきたのは
「何? 実の母から嫌われているっていうのを、息子のオレの口から聞きたいの? 君も随分とあくどいね」
またしても、虚無の仮面で全てを覆ったもので。